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一般講演 P3-059

開花密度がヤブツバキの花粉散布に与える影響

阿部晴恵(東邦大・理・地理生態), 上野真義(森林総研・樹木遺伝), 津村義彦(森林総研・樹木遺伝), 長谷川雅美(東邦大・理・地理生態)

2000年から続く火山活動により、三宅島の森林は破壊的な影響を受けている。噴火活動は、森林の主要な構成種であるヤブツバキに対し、脱葉や花芽形成の阻害など負の影響を与えたが、開花密度の低下はかえってメジロによる花粉媒介の効率を上昇させ、受粉率に正の影響を与えることが明らかにされた(Abe and Hasegawa in prep)。そこで、6調査地間(各0.3ha)において開花密度の違いが花粉流動にどのような影響を与えるかを検証するために、SSRマーカー(10座)を用い、種子形成に寄与した花粉プールの遺伝的多様性と父性解析による花粉散布範囲を推定した。その結果、各調査地の開花密度は2544,1777,998,488,28,21(花数/ha)であるのに対し、母樹間の花粉プールのAllelic richnessに基づいた遺伝的分化指数(Ast)は、開花密度が低くなるにつれて下がる傾向があった。果実ごとに調査地外からの花粉流入率は平均0, 8, 7, 6, 26, 24(%)となり、開花密度の低い調査地で上昇した。さらに花粉媒介者(メジロ)の行動圏をラジオテレメトリー法により推定したところ、低い開花密度(206花/ha)での行動圏の面積は1.97ha(N=3)となり、高い開花密度(10107花/ha)での行動圏(0.26ha、N=8)の約8倍に拡大した。遺伝マーカーの結果同様、開花密度の低いところほど花粉散布範囲が広くなることが示唆された。

以上の結果から、低開花密度下での花粉媒介者の行動が、ヤブツバキの受粉率を高め、かつ花粉流動を促進し、噴火被害に抗して繁殖率の回復や個体群拡大のメカニズムとして働くと考察された。

日本生態学会