| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P3-062

坂道はお嫌い?:斜面におけるマルハナバチの株間移動方向

牧野崇司(筑波大・生命環境)

蜜や花粉を求めて植物株間を飛び回る送粉者の移動経路は、花粉の移動先を決定する重要な要因である。そのため多くの研究が送粉者の移動経路を調べてきたが、その観察の殆どは「水平面」でしか行われていない。しかし植物は、高山などの「斜面」にも生える。斜面では、水平面と異なり、移動に上りと下りが含まれるため、送粉者の移動経路に方向性が生じるかもしれない。上下の移動については、垂直花序で採餌するマルハナバチが、上方に強い指向性を示すことが知られている。ではハチは、斜面を移動する際にも、上方に移動するのだろうか?それともエネルギー節約のため、重力に逆らわず横方向に移動するのだろうか?移動の方向が偏れば、花粉の移動も偏ることになる。そのため、この問題は植物の繁殖にとって重要である。本研究では、傾斜がハチの移動に与える影響を、室内実験で明らかにする。

実験は、網製ケージ内に設けた縦横1.8mの斜面に人工花を配置して行った。人工花は斜面上のどの方向から見ても同じ形に見えるように球形とし、1花を1株として、32cm間隔の格子状に並べた。そして、クロマルハナバチを巣から1個体ずつ放し、水平から垂直まで、5段階の傾斜角(0, 22.5, 45, 67.5, 90度)における移動の方向を調べた。

その結果、傾斜が急になるほど、真下への移動が減少することがわかった。特に垂直面では、真下への移動が、水平面の同方向の移動と比べて約1/3に減少した。一方で、下への移動の減少を補うように、ななめ下方向への移動が増加した。こうした傾向は殆どのハチ個体に共通していた。しかし、上方向と横方向の移動の割合には個体差が見られ、移動が上方向に偏る個体から、横方向に偏る個体まで観察された。以上の結果は、傾斜の急な斜面に生える植物ほど、真下への送粉量が減少することや、訪れるハチ個体によって花粉を運ぶ方向が異なる可能性を示唆している。

日本生態学会