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一般講演 P3-063

ブナ個体群密度がブナの花粉散布及び種子生産に与える影響

沼野直人, 陶山佳久(東北大院・農)

日本のブナ天然林は戦後大規模に伐採され、現在では分布の連続性が低下して小集団化した林分が多く見られる。この様な林分では受粉可能な花粉の流動範囲が制限され、種子の充実率や次世代の遺伝的多様性が低下することが危惧される。そこで本研究では、ブナ個体群密度の異なる場所に生育する母樹に注目し、それらにおいて生産された種子の充実率と遺伝的多様性を解析し、個体群密度が花粉散布及び種子生産に与える影響を明らかにすることを目的とした。

調査は東北大学大学院農学研究科附属複合生態フィールド教育研究センター内の約500haの同一河川流域内を対象として行なった。ブナの豊作年であった2005年秋、個体群密度が異なる場所に生育する9母樹から計9453個の種子を採取し、充実・しいな・虫害の3つに区分し、それぞれの数を数えた。次に、1母樹当たり96個の充実種子をランダムに選びDNAを抽出した。また2005年及び2006年の早春、調査地内をくまなく踏査し、胸高直径15cm以上の全てのブナ成木1571本から葉を採取してDNA抽出を行なった。これらの種子と成木のDNAについて7つのSSR遺伝子座の遺伝子型を決定し、花粉親解析を行った。

種子の充実率は個体群密度と正の相関関係にあり、個体群密度の高い場所では種子の充実率が高いことが分かった。一方で、個体群密度と種子生産に貢献した花粉の遺伝的多様性は負の相関関係にあり、個体群密度が低い場所の母樹ほど多様な花粉を受粉して種子生産していることが示唆された。そこで花粉の流動パターンについて調べたところ、高密度個体群においては半径100m以内の花粉親からの送粉が種子生産に大きく貢献していることが明らかとなった。半径100m以内に花粉親と成り得る個体が存在しない場合には、遠距離からの送粉が卓越して種子生産に効果的に働いていることが示唆された。

日本生態学会