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一般講演 P3-067

振動センサーを用いた訪花昆虫の観察システムの開発

*木村恵(東大・ア生セ),渡辺伸一(統数研)

訪花昆虫の観察は植物の繁殖生態を明らかにする上で重要であるが、その定量的な計測には昆虫の識別能力と多くの労力が必要とされる。本研究では、高感度マイクを用いた簡便かつ高精度な訪花観察システムの開発を試みた。高感度マイクを植物に取り付けることで、昆虫が植物にとりついた時に発生する微細な振動を電気信号に変換して記録する。振動データから、訪花昆虫種に応じた振動パターンを識別できれば、観察者の熟練度合いに関係なく、訪花昆虫種の識別が可能となる。開花最盛期のビワの花序に高感度マイクを設置し、ICレコーダーを用いて振動データを記録した。振動データの有用性を評価するため、ビデオカメラによる記録も同時に行った。画像データの解析から、6花序に1時間で21個体32回のハエアブ類の訪花がみられた。高感度マイクによってこれらの訪花による振動を全て記録する事ができた。また、画像では捉えきれなかった瞬間的な訪花も記録でき、振動データの有用性が示された。その一方で、振動データには風による葉ずれや鳥類の鳴き声などのノイズ振動も記録された。これらのノイズと訪花昆虫の行動を識別するため、周波数、振幅などをもとにした振動データの波形特性の比較を行った。その結果、訪花昆虫の行動は、低周波成分のみを含み、高周波成分を含む鳥の鳴き声とは明らかに異なった。風による葉ずれは低周波成分を多く含み、昆虫の訪花と類似した特徴を示した。また、昆虫種による振動パターンの違いを識別するため、波形特性を昆虫種間で比較したところ、振動の大きさを示す振幅は、訪花昆虫のサイズ、植物種によって、異なることが示唆された。さらに、植物の振動データの特性を分析することによって、訪花昆虫の行動を効率よく検出するシステムへと発展することができると考えられる。

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