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一般講演 P3-071
多くの生物で、体サイズに緯度クラインが存在することが報告されている。これらの緯度クラインは遺伝的変異によるものか、それは適応の結果であるかは、生活史進化の研究においても重要なテーマであり、古くから多くの研究者に注目されてきた。しかしながら、体サイズには様々な要因が関与していることからも、緯度クラインがなぜ形成されるかは現在まで多くの論争が続いている。
昆虫でも体サイズの緯度クラインはコオロギ、チョウ、ショウジョウバエなどで報告されている。例えばエンマコオロギでは、高緯度ほど発育に利用できる期間が短くなるため、発育期間の短縮と共に成虫の体サイズは直線的に小さくなる。また化性が緯度によって変化する昆虫ではクラインが不連続になる。しかし、そのような研究例は一部の昆虫のみに限られ、一般論が言える状態ではない。また季節多型を示す種において、季節型間の緯度クラインを比較した研究もない。休眠越冬を経験した世代とそうでない世代とでは、休眠のコストが関与することによりクラインの高さや傾きに違いが生じるかもしれない。
本研究では、多化性で春型と夏型という季節二型を示すキアゲハ Papilio machaon を用いて、日本各地の博物館に所蔵されている標本や各地で採集した個体の翅長を測ることにより、体サイズの緯度変異について季節型間で比較を行った。その結果、夏型では雌雄共に、有意に高緯度ほど体サイズが直線的に減少した。一方で、春型は雌雄共に緯度による体サイズの変異はなかった。本講演では季節型間で体サイズの緯度クラインにこのような違いが生じる理由についても考察したい。