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一般講演 P3-081
ジャコウアゲハは利用するホストや地域によって休眠性に遺伝的な変異がみられることが知られている。休眠はホストの質の季節変化への適応と考えられており、同一ホストでも地域間でのフェノロジーの違いから生活史に変異が生じている可能性が指摘されている。ホストの質の季節変化が地域内で一定でない場合、日長や温度から次世代の幼虫が経験する葉の質を予測するのは困難である。このような場合、葉の質の低下そのものを休眠の刺激に用いる可塑的な休眠戦略が適応的である。本研究では幼虫時代に経験するホストの質の種内での変異がジャコウアゲハのパフォーマンスおよび休眠に与える影響を室内飼育実験により調べた。さらに野外において、ホストであるオオバウマノスズクサの葉の質が実際に地域内・地域間でどのような変異がみられるかを明らかにした。
同じ親から得られた幼虫を異なる硬さの葉で飼育したところ、硬い葉を与えた処理において、幼虫期間の延長、初期死亡率の増加、蛹休眠率の増加がみられたが、蛹の重量には差は見られなかった。また、同一処理内で幼虫期間と蛹休眠率の関係を調べたところ、幼虫期間が長いほど休眠に入る個体が増加した。
野外におけるオオバウマノスズクサの葉の質には地域内・地域間で違いがみられた。特に攪乱環境において新しい葉の割合が多い傾向が見られた。
これらの結果から、種内での葉の質の違いはジャコウアゲハの成長に影響を及ぼし、休眠率を変化させることが明らかになった。さらに地域内・地域間で葉の質に変異がみられることから、ジャコウアゲハの個体群内・個体群間において幼虫時代に経験する葉の質の違いにより生活史に変異が生じる可能性が示唆された。こうした可塑的な休眠戦略は、攪乱後の補償生長など、日長の変化から予測できない葉の質の変化がおこりやすい植物を利用する昆虫にとって適応的であると考えられる。