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一般講演 P3-088

仔稚魚はどこで育つ?−メコン川中流域氾濫原における魚類初期生活史を探るー

*大塚裕之(京都大,ASAFAS),岩田明久(京都大,ASAFAS)

メコン川中流域の魚類は雨季になると、浸水したメコン川支流の氾濫原に進入、産卵し、そこで仔稚魚が成育すると住民によって認識されてきた。多くの魚類がメコン川本流からの長い距離を回遊していると考えられており、メコン川中流域の魚類全体にとって支流の氾濫原は仔稚魚の成育場所として非常に重要な意味を持つと考えられる。

天然魚はこの流域の人々にとって重要な食料資源である。しばしば、仔魚は、稚魚や成魚とその分布や生育場所が異なる。そのため、資源としての天然魚の利用を考慮する際に、仔稚魚の初期生活史を明らかにする必要がある。しかしながら中流域に生息する魚類の初期生活史への関心は薄く、成育場所といった基礎的情報は得られていない。

そこで本研究では、メコン川中流域の魚類初期生活史を明らかにすることを目的として、2006年2月末から8月末まで(乾季末から雨季)、メコン川中流域の支流チャムポーン川において調査を行った。以下の4点で毎月採集を行い、出現した仔稚魚の種数、1CPUE当りの採集個体数の比較を行った。1)チャムポーン川の川岸、2)乾季も水のある沼(恒久的水域)、3)水深約1mの一時的水域、4)岸辺(2−4は氾濫原内)。

その結果、氾濫原内の一時的水域(3、4)では恒久的水域(2)に比べて、約6倍の個体数、約2倍の種数の仔稚魚が出現した。また、同じ一時的水域でも水深の異なる3,4では、種構成、優占種に違いが見られた。川岸ではMystacoleucus属が出現した個体数の62.0%を占めた。

上記の結果から、親魚が河川に生息する多くの魚種の仔稚魚も氾濫原内で成育することが明らかになった。氾濫源の中でも、一時的水域は仔稚魚の成育場として重要な役割を果たしていることが明らかになった。

日本生態学会