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一般講演 P3-096

開花タイミングにおける表現型可塑性の自然変異とその遺伝的基盤の探索

*杉阪次郎(神戸大・院・自然科学),清水健太郎(チューリヒ大学・理), 嶋村良治, 工藤洋(神戸大・理・生物)

いつ花を咲かせるかは、重要な適応形質であり、開花時期は気温などの季節変動に応答して可塑的に変化することが知られている。シロイヌナズナでは低温に対する開花応答性の自然変異が、特定の花成抑制遺伝子の「発現量」の違いによることが分かってきた。可塑性の程度が量的な遺伝メカニズムによって決まる場合、異質倍数化による相同な遺伝子の倍加はどのような影響を及ぼすだろうか?この問題は、倍数化による種形成が一般的に見られる植物にとって進化学的に重要な課題である。タチスズシロソウは異質四倍体で、シロイヌナズナ属の2倍体種が親種であることが判明している。本研究の目的は、「異質四倍体タチスズシロソウの低温に対する開花時期の可塑性の遺伝的基盤を明らかにする」ことを目的とした。

複数集団から採取した植物を低温期間の長さを変えて栽培した結果、低温によって開花が促進されるが、低緯度の集団ほど長期の低温を必要とした。シロイヌナズナではFLC遺伝子が実生時から発現し、長期の低温によって発現が抑えられ開花に至る。そのため、本種にもFLC遺伝子が存在するかを調べた。その結果、推定親種由来と考えられる2つのFLC遺伝子が両方とも転写されており、二つのFLCの転写産物の総量は長期の低温によって低下することが明らかとなった。このため、開花の低温応答性の集団間変異が、実生時のFLC転写量によって説明されるかどうかを調べた。解析の結果、FLC転写産物の総量に集団間で有意な差がみられたが、長期の低温期間が必要な集団では、FLC転写量が多いといった関係はみられなかった。今後、異なる親由来のFLC遺伝子を分けて解析する手法を確立し、低温に対するそれぞれの転写量の応答性を集団間で比較することを予定している。

日本生態学会