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一般講演 P3-100

絶滅危惧植物シラタマホシクサのフェノロジーに関する地理的変異

*長谷川万純,岩井貴彦,深川忠政,増田理子,山下雅幸,澤田均

絶滅危惧植物シラタマホシクサのフェノロジーに関する地理的変異

*長谷川万純(静大農)・岩井貴彦・深川忠政・増田理子(名工大)・山下雅幸・澤田均(静大・農)

シラタマホシクサ〈i〉Eriocaulon nudicuspe〈/i〉はホシクサ科の1年草で、絶滅危惧II類に分類される湿地性草本である。東海地方の固有種であり、希少生物が数多く生息する湧水湿地のシンボルの一つである。周伊勢湾地域に広く生息していたが、近年、農地整備や宅地開発等の土地造成、里山の管理放棄等による湧水湿地の消失や環境の変化に伴い、個体群の減少や分断化が進んでいる。

シラタマホシクサの保全は急務であるにもかかわらず、その生態的特性や遺伝変異の様相など、保全に不可欠な基本的情報は極めて少ない。そこで本研究では、静岡県および愛知県の10集団について、フェノロジーに関連する特性調査、および酵素多型分析による遺伝変異の解析を行い、シラタマホシクサの地理的変異について調査した。

シラタマホシクサは早春発芽し、8月から10月に開花・結実し、12月頃までには大半の個体が枯死する。発芽特性(発芽率、発芽速度)に関しては、集団間に大きな変異がみられた。開花・結実前の個体死亡率を自生地で調査した結果、19%から80%と集団間で異なった。また酵素多型分析の結果、遺伝子多様度は平均0.212(0.142から0.327)、遺伝子分化係数は0.359と遺伝的分化の程度が高かった。

以上の結果から、愛知県および静岡県におけるシラタマホシクサは集団間の遺伝的分化が進んでいることが示唆された。また湧水湿地が急速に減少していることや採取地の不明な種子の増殖・撒き出しなど保全上の課題も多く、シラタマホシクサの自生集団が決して良好な状態ではないと考えられる。

日本生態学会