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一般講演 P3-103

ブナ実生における捕食者飽食:哺乳類と病原菌の異なった反応

*田辺慎一(森の学校キョロロ)

種子生産を変動させる適応的なメカニズムを解明するためには、個体群へのリクルートに対する密度依存的な影響も検証する必要がある。特に、捕食による死亡率が高い当年実生に対する影響の解明が望まれる。当年実生の密度は、種子の場合でよく知られているように捕食率と負の関係を示すと予想される。本研究では、豊凶を示す代表的な樹種であるブナの当年実生密度と捕食圧(立ち枯れ病の感染および哺乳類の食害)の関係を検討した。

成熟度合いの異なる2つのブナ二次林のそれぞれに、哺乳動物排除区と対象区のプロット(0.5 m2)をペアで8つ設け、2006年6月から11月に月一回、マーキングによる当年実生の追跡調査を行った。また、プロット単位でPPFD、土壌硬度および土壌の水分含有率の測定をそれぞれ1回行なった。

プロット当たりの実生密度は104〜736本/m2、平均は383本であった。ブナ林の間では、実生密度の差はなかったが3つの環境要因すべてが有意に異なっていた。実生の生存率はPPFDと強い正の関係を示し、明るいブナ林で有意に高かった。実生の死亡のほとんどは立ち枯れ病によるものであり、プロット当たりの感染による死亡率は25〜100%、平均で64%であった。感染率はPPFDと強い負の関係を示し、暗いブナ林で有意に高く、特に梅雨時期に感染個体が急増した。また、当初の予想とは異なり、感染による死亡率は、当年実生の密度と明らかな正の関係を示した。このことから、種子生産を変動させるメカニズムとしての捕食者飽食は、実生の病原菌では作用しない可能性がある。一方、哺乳類の食害がほとんどなかったことは、飽食仮説を支持する。また、病原菌の感染率がブナ林間で異なっていたことから、種子生産の変動が捕食者を介して実生の生存に及ぼす効果は、捕食者のタイプおよび森林環境の違いによって影響されると考えられた。

日本生態学会