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一般講演 P3-105
本州では2000m級の尾根が太平洋側地域と日本海側地域の地理的境界になっている。また太平洋側の大半は少雪の太平洋岸気候区(PO)に属する一方、日本海側および太平洋側の北端は多雪の日本海岸気候区(JS)に属する。こうした「地理的隔離」と「環境の相違」に伴い植生も推移する。本研究では両地域が接する山系において、コナラおよびミズナラがどの様に種内分化しているかを明らかにすることを目的とした。
群馬・栃木・福島・新潟県でコナラ8集団(PO:4、JS:4)、変種であるミヤマナラを含むミズナラ25集団(PO:7、JS:18)を採取し、核SSR10座、葉緑体SSR6座を用いて分析した。但しPOとJSは年最大積雪量50cmのミヤコザサ線を境に分類した。
葉緑体SSR分析では、ナラ両種が同一ハプロタイプを共有し、類似した遺伝構造を形成していた。一方、太平洋側と日本海側では異なるタイプが優占し、両地域を隔てる尾根による「地理的隔離」が認められた。さらにその境界域に位置する栃木県北部では稀なタイプが複数検出された。
核SSRのヘテロ接合度期待値HEはコナラでPO<JS、ミズナラでPO>JSという結果を示した。POとJS間でのHEの大小関係が両種で逆転しているのは、積雪が両種に及ぼす影響の仕方が異なったためと推察された。集団間の分化度を示すFSTはコナラで0.012、ミズナラで0.030だった。Hardy-Wienberg不平衡および連鎖不平衡を最小にする様に個体を振り分けるSTRUCTURE解析では、供試したコナラ個体は1群に纏められた一方、ミズナラ個体は2群に分けられ、特にミヤマナラ集団およびPOの中でも多雪かつ傾斜地に位置するミズナラ集団は、他のミズナラ集団と優占する群が異なっていた。即ち「環境の相違」がミズナラの種内分化、さらにミズナラからミヤマナラへの分化を促した可能性が示唆された。