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一般講演 P3-113
東南アジア熱帯雨林の主要構成種であるフタバガキ科樹種の種多様性の創出と維持に、遺伝的浮動と個体群内の遺伝的分集団化が関わるという仮説を立て、マレーシアサラワク州ランビル国立公園においてフタバガキ科樹種の遺伝構造の調査を進めている。公園内に設置された52 ha調査区内では、移動距離が長いミツバチにより花粉媒介されるDryobalanops属やDipterocarpus属では同所的近縁種が少なく、移動距離が短い甲虫により媒介されるShorea属では多い。この観測事実に基づき、ミツバチ媒の樹種に比べて甲虫媒の樹種では、遺伝子流動の範囲が狭く遺伝的分集団化が明瞭であると予想し、Dryobalanops aromatica(以下リュウノウジュ)とShorea curtisii(以下サラノキ)の二種について、マイクロサテライト解析を行った。
これまでに胸高直径30 cm以上の個体について、両種の対立遺伝子の有効数は他の東南アジア熱帯のフタバガキ科樹種に比べ小さいこと、リュウノウジュではホモ接合体が、サラノキではヘテロ接合体が過剰であること、大径木では小径木に比べ特定の対立遺伝子の相対頻度が高いことが分かっている。また対立遺伝子の空間分布からは、仮説とは逆にリュウノウジュの方が遺伝子流動の範囲が狭いことが示唆されている。
仮説のさらなる検証のため、両種の実生個体群についてもマイクロサテライト解析を適用した。両種それぞれ3母樹、合わせ6母樹を選び、各母樹の樹冠下において50本の実生からDNAを抽出した。本講演では、実生個体群の遺伝構造および実生個体の生存率と遺伝子型の対応について報告する。