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一般講演 P3-118

早池峰山のアカエゾマツ孤立集団における繁殖成功パターンの推移

*富田基史, 陶山佳久(東北大・院・農), 関剛, 杉田久志(森林総研・東北)

アカエゾマツPicea glehniiは本州では岩手県の早池峰山にのみ分布している.この集団の繁殖個体数は少なく,自殖・近親交配による遺伝的な劣化によって,将来における集団の衰退が危惧される.そこで本研究では,アカエゾマツ孤立集団の繁殖成功パターンを調べることで繁殖集団としての遺伝的健全性を評価し,孤立集団における更新初期の個体群動態を遺伝的側面から明らかにすることを目的とした.

調査地では2005年にアカエゾマツの開花が確認されており,同年9月に15母樹の樹冠上部から球果を採集した.また翌年7月に,2005年の結実量が多かった3母樹から20m以内を範囲とするプロットを設置し,プロット内のすべての当年生実生および稚樹と,調査地内に分布する全成木から葉を採取して,位置と個体サイズを測定した.採集したサンプルからDNAを抽出し,マイクロサテライトマーカを用いた親子解析をおこなった.これらのデータにもとづき,2005年に開花したアカエゾマツ集団の繁殖成功パターンの推移を,種子,翌年に発芽した当年生実生,それ以前の繁殖年に由来する稚樹の3つの生育段階で解析した.

その結果,種子と当年生実生の段階においては自殖率がきわめて高かったのに対して,稚樹の段階においては自殖に由来する個体はほとんど生存していないことがわかった.また遺伝的劣化を示すと考えられる目立った形質として,当年生実生のうち約5%にはアルビノなどの有害突然変異がみとめられた.一般的にマツ科樹種では,発生初期に自殖・近親交配に由来する個体が淘汰され,種子段階でも自殖個体はわずかであるとされている.それに対してこの集団では,自殖・近親交配に由来する個体が少なくとも発芽直後の段階まで残存し,集団中に有害遺伝子が蓄積されやすい状態にあることが示唆された.

日本生態学会