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一般講演 P3-121
日本の暖帯林はシイ・カシ・タブ等の常緑高木の葉が林冠を密に覆い、林床は昼間でも薄暗い。そのような独特の環境に生育する林床植物は、林冠構成樹や草原植物等とは異なる生活史特性を有していると考えられる。実際、光合成特性や果実の色等の形質に関する林床環境への適応戦略が論じられている。本研究では、暖帯林の林床植物であるミヤマトベラについて、遺伝構造及び交配様式を調査し、その生活史特性を明らかにすることを目的とした。
ミヤマトベラは高さ1m未満のマメ科の常緑低木で、日本では太平洋側の暖帯林内に隔離分布する。初夏に白い蝶型花を多数つけ、東大千葉演習林における観察では結果率は1割程度である(梅原2005)。果実は楕円体で長さ15mm程度、晩秋に黒紫色に熟し、種子が1つ入っている。
ミヤマトベラの日本での分布域全域をほぼ網羅するように選んだ15集団及び韓国済州島の1集団から試料を採集し、ミヤマトベラで開発した核SSRマーカー13座を用いて種内の遺伝構造を調べた。また、東大千葉演習林の個体群を対象に、交配様式を明らかにするための実験を行い、結実率を比較した。
多型が認められた核SSR 6座に関して、高度な集団間分化(GST=0.603)と著しいホモ接合過多(FIS=0.832)が認められた。交配実験の結果、ミヤマトベラの花序当り平均結実率は解放区(0.143)、自動自家受粉(0.133)、人工自家受粉(0.091)、人工他家受粉(0.100)の間で有意な差はなかった。また野外観察で、開花前に葯が裂開し自家花粉が柱頭に大量に付着していた。これらの事実は、ミヤマトベラが自然界でも自殖による繁殖を行っている事を強く示唆している。ホモ接合過多は高頻度の自殖によると考えられ、著しい集団間分化は、花粉による遺伝子流動が少ない上、ミヤマトベラの果実は大型で散布距離が制限されることが原因と考えられる。