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一般講演 P3-122
背景:大型動物による食圧を受ける草本群落では、刺・毒などの被食回避形態をもつ植物種は、近隣に存在する他の植物種に対して間接的に被食回避効果を与える。この保護効果は、群落の種多様性を促進する要因として、その重要性が近年注目されている。しかし、それら植物種間での競争は種多様性を下げうるため、両効果を評価した解析が必要である。
目的:植物種間での競争効果と保護効果が植物群落の種多様性に与える影響とその季節変化を明らかにする。
方法:奈良公園に生育しシカに対する被食回避形態をもつイラクサを対象とした。競争効果と保護効果を分けて評価する野外実験を行った。公園内にイラクサの存在/切除、および被食防護柵の設置/非設置の処理を組み合わせたプロットをそれぞれ10個ずつ設置し、各プロット内の種数、各植物種の被度、最大草丈、最大葉長、繁殖の有無を、約2カ月おきに記録した。
結果:イラクサの存在/切除は、種数、繁殖種数に有意な差がなく、切除区内で種数が高い傾向が見られた。一方、柵の設置は、非設置区より繁殖種数が有意に高まった。種数の季節変化はどの処理区も同様のパターンを示し、5〜7月に最も高く、9月に一年草や多年草が枯れたため減少したが、12月に秋発芽の一年草が出現し若干増加した。
結論:奈良公園において、植物種間の保護効果による種多様性の増加は小さく、競争効果による減少が相対的に大きいことが示唆された。この結果は、多様性促進を支持した多数の先行研究とは一致しない。その理由として、奈良公園の被食圧はきわめて高く、保護植物自身もかなりの程度被食されたため、保護効果が弱まったと考えられる。