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一般講演 P3-124
スギ・落葉広葉樹林(京大芦生研究林、京都府南丹市)の下層において同所的に優占する低木3種(タンナサワフタギ、クロモジ、ツリガネツツジ)の共存機構を明らかにするため、生活史初期段階(最大幹長50cm以下)の定着過程と生育形や成長様式を比較した。
調査区(10m x 10m)の林床基質は、リター基質(面積の88%)と倒木・株や生木といった木質基質(12%)から構成されていた。調査区内に出現したタンナサワフタギ、クロモジ、ツリガネツツジの生活史初期段階の株数は、幾分かの差があったもののほぼ同程度であったが、基質への対応には顕著な種間差が認められた。すなわち、タンナサワフタギとクロモジがほぼ全てリター上に存在したのに対して、ツリガネツツジは木質基質上に顕著に偏り、最大幹長4cm以下の株は全て木質基質上に存在していた。一方、種子重には顕著な種間差が認められ、クロモジ、タンナサワフタギ、ツリガネツツジの順に大きく、ツリガネツツジの種子重(0.04mg)は前2種の1/1000程度であった。3種の樹高成長量には著しい種間差がなかったものの、生育形は種間で顕著に異なった。すなわち、クロモジは樹高成長を優先する単幹型であったのに対して、ツリガネツツジは著しく分枝する枝構造をもつ一方で複数の萌芽幹によって当年枝を水平方向に配置する生育形となり、タンナサワフタギは2種の中間的な型となっていた。
以上のことから、種子サイズが小さい種では、定着後、分枝の多い傘型的な樹冠形と株立ちの発達によって死亡リスクの分散を図っていることが明らかとなった。この傾向は種子サイズが著しく小さく初期定着サイトが木質基質に限定されるツリガネツツジで顕著であり、他の2種との共存に寄与するメカニズムであることが推察された。