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一般講演 P3-129

千葉県小櫃川河口干潟周辺におけるヨシ(Phragmites australis)の生態的可塑性

*田中正之(宇都宮大・雑草セ),西尾孝佳(宇都宮大・雑草セ),一前宣正(宇都宮大・雑草セ),Siegmar W. Breckle (University of Bielefeld, Germany)

千葉県小櫃川河口干潟は,東京湾に残存する最大級の干潟で,稀少な野生生物の住処としてなど,その保護が求められている。小櫃川河口干潟植生の優占種のひとつであるヨシ(Phragmites australis)は,世界中の温帯域干潟周辺に共通して分布し,渡り鳥に住処を提供するなどの役割を果たしてきた。しかし,様々な環境変化に伴い,多くの地域においてヨシの分布が拡大し,他の在来塩生植物の生息地を奪うことなどが懸念されている。このような環境変化に伴うヨシの分布拡大では,クローナル植物であるヨシの環境適応性の高さが重要であると考えられる。特に塩ストレス,砂堆積などの程度が変化する干潟周辺では,ひとつの個体群でも異なる環境条件に曝されるため,個体群内の位置によっても異なる適応を果たす必要もある。そこで本研究では,小櫃川河口干潟周辺に分布するヨシの個体群構造を調査し,各環境に対するヨシの生態的可塑性様式を比較検討した。調査は,(1)干潟内で20年以上群落が維持されている個体群,(2) 干潟内に最近形成された平坦な砂州上に分布する個体群,(3) 干潟の上流で,海水の影響のない河岸に分布する個体群,(4) 干潟に近接し,20年以上耕作されていない放棄水田に分布する個体群のそれぞれにおいて,拡大部,中心部及び移行部で群落構造を測定した。その結果,a) 桿サイズは放棄水田個体群で最大であったのに対し,平坦地の干潟個体群で最小となった,b) 地下部重は起伏地に比べ平坦地で大きかった,c) 根茎片数,桿本数,桿集中度は平坦地の干潟個体群で最多となった等の構造的変化が示唆された。

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