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一般講演 P3-132

白馬山系の多様な土壌特性と高山植物の生育

*波多野肇,大橋雄気,増沢武弘(静岡大・理)

蛇紋岩が分布する地域は蛇紋岩植物と呼ばれる固有の植物が生育することが知られている。しかし、このような植生が成立する要因に関しては、土壌中の栄養源の不足や激しい礫の移動、土壌中の微量元素の量等様々な説はあるものの、未だに解決されていない部分は多い。本研究は白馬山系の高山帯を調査地として、蛇紋岩地域の植生の成立要因を明らかにすることを目的とした。

白馬山系の蛇紋岩地域にて植生調査を行った結果、蛇紋岩地域には非蛇紋岩地域に分布するミヤマキンバイ、チシマギキョウなどの植物は分布せず、ミヤマムラサキ、ウメハタザオなど蛇紋岩地域固有の植物のみが生育していて、白馬山系においても蛇紋岩地域に特別な植生が成立していることが明らかとなった。

土壌測定の結果、蛇紋岩地域ではNi、Mgイオン含有率が他の地域の10〜100倍高いことがわかった。土壌中の多量なNi、Mgイオンは、植物の生育を妨げる(Gabbrielii R.ほか 1990)ため、これらのイオンが蛇紋岩地域の植物の分布に影響を与えている可能性が示唆された。

Niを加えた培地において、蛇紋岩地域に生育する植物は生長が抑制されないのに対し、非蛇紋岩地の植物であるミヤマキンバイやチシマギキョウでは生長が抑制され、特に根の伸長量はNiを加えない培地で生育したものの1/5程度であった。非蛇紋岩植物が蛇紋岩地域に分布できない要因として、蛇紋岩土壌の多量なNiによる植物の生長阻害が挙げられた。

蛇紋岩植物が持つNi耐性について調査を行うため、植物の各器官に含有するNi量の測定を行った。蛇紋岩地域に生育するほぼ全ての植物で、Niは根に多く含有され、地上部のNi量は僅かであったことから、蛇紋岩植物が持つNi耐性機構の一つとして、根にNiを貯め、光合成器官、生殖器官のある地上部へのNiの移動を制限している可能性が考えられた。

日本生態学会