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一般講演 P3-137
栗駒山の龍泉ヶ原湿原周辺における完新世中期以降の植生変遷を花粉分析により明らかにした。昨年の発表では、完新世後期に分布を拡大したとされるオオシラビソが、最終氷期以降どのような変遷を経てきたかを明らかにするために、栗駒山秣岳の孤立したオオシラビソ小林分に注目し、隣接した湿原で花粉分析をおこなった。その結果、この林分が数千年前から微小な林分を維持しながら生育してきたことを示した。この発表では、秣岳と同じ標高域にあって周囲にオオシラビソが生育していない龍泉ヶ原湿原で花粉分析をおこない、オオシラビソの分布拡大や移動の有無を中心とした植生変遷について検討した。龍泉ヶ原は、秣岳の東方1.5kmの標高1340mに位置し、主稜線から約200m下方の谷頭凹地に開けた高層湿原で、周囲の山腹斜面は落葉広葉樹の低木におおわれている。花粉分析試料は湿原のほぼ中央部で採取した。試料は表層より深さ180cmまでの泥炭を主体とする堆積物で、下部は主に砂・シルト質となっていた。試料中には2枚のテフラ層が挟在しており、上位の深さ35cm付近のものはAD915年に噴出した十和田aテフラに対比された。花粉分析の結果、モミ属の花粉は全層位を通じてほとんど検出されなかった。樹木花粉では、ブナ属、コナラ亜属、ヤシャブシ亜属の検出割合が大きく、最表層ではスギ属が最も優勢だった。これらの特徴は、秣岳における分析で完新世中後期と推定した時代の変化ときわめて類似していた。この結果から、完新世中後期の時代を通じてオオシラビソがこの湿原周囲に生育したことはなかったと推定した。また、表層でもモミ属花粉が全く検出されなかったことは、秣岳のような面積が限られた分布地からのオオシラビソ花粉の飛散はきわめて狭い範囲に限られることを示しており、花粉分析結果を解釈するうえで重要な結果と考える。