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一般講演 P3-161

住宅街におけるタイワンリスの空間利用−分布拡大を阻止する街作りの基礎−

*佐藤視帆・小池文人(横浜国大・院・環境情報)

タイワンリス(Callosciurus erythraeus)は、東南アジア原産の外来哺乳類で、森林の多い都市域や里山周辺で分布を広げている(田村 2002)。植林地における樹皮剥ぎや住宅地では電線がかじられる経済的被害が出ていて(小野 2001),餌の種子や果実をめぐる在来鳥類との競合や昆虫類の捕食(東 1998)などの生態的被害も危惧されている。

樹上性の哺乳類であるため,森林が分断された都市近郊で分布を拡大するためには、住宅地を通り別の林地へと移動する必要があり,適切な空間構造(電線や並木などの立体的構造と,森林と市街地の配置などの水平的構造)の街作りを行うことで分布拡大を阻止できる可能性がある.

しかし、森林内の植生管理や捕獲による密度管理に関する研究はあるが、住宅地の整備に着目した研究は行われていない。この研究では森林から住宅地に入り込む距離や、電線やフェンス,街路樹,家屋の屋根などの利用頻度を調査し,分布拡大を阻止するための街づくりはどうすればよいかを検討した。さらに観察者からの逃避行動について調べた。

その結果,タイワンリスは森林内で多く観察されたが,住宅地にも100mほど入り込んでいる。住宅地では街路樹を利用することが多いが、電線や屋根も利用していた。森林ではまれに地面に降りることもあるが、住宅地では降りない。住宅地で観察者と遭遇後は森林方向に逃げることが多く、また住宅地内の小さな空間スケールでは電線などから樹冠に移動した。以上のことから、タイワンリスは住宅地では森林内よりも警戒しており,分布拡大を妨げるにはタイワンリス分布域を取り囲んで100m以上の幅の無森林域をつくるほか、住宅地では地面におりないため10m以内程度の高さで並木や電線などが森林から連続しないようにすることで分布拡大を阻止できる可能性がある。

日本生態学会