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一般講演 P3-168
近年、造園、緑化分野では遺伝的撹乱の観点から、植栽場所によっては外来種のみならず在来種の導入に関しても慎重に行うべきとの認識が広がりつつある。しかし、造園・緑化ビジネスでは全国規模での植物材料流通が一般的であるため、たとえ在来種を用いてもその地域の自然集団に遺伝的撹乱をもたらす可能性がある。この問題に対処するためには、まず生産・流通が既に確立している造園・緑化植物について現状を把握する必要がある。そこで本研究では、アオキ(Aucuba japonica Thunb.)を対象として、生産に用いられる苗木の起源および非管理地での生育実態を把握することを目的とし、倍数性判別、葉緑体DNA多型解析とAFLP分析による、生産個体の起源推定、植栽個体の半自然地域等周辺環境への逸出の有無、自生個体と非自生個体との交雑の有無を調査した。
その結果、日本有数の植木生産地の圃場では、葉緑体多型と核型によって分類された自然分布8タイプ(Ohi et al., 2003)のうち、特定の1タイプだけが生産に多用されており、生産個体の起源には偏りがあることが推定された。また、本来地域にはない非自生個体が孤立林や半自然地域の樹林地内で集団を構成しており、種子分散による周辺への逸出が推定された。さらに、葉緑体DNAでのハプロタイプ識別と核DNAでの分類に一致が見られないことから、非自生個体と自生個体の交配が頻繁に起こっていることが示唆された。
造園・緑化ビジネスの現状から見ると、他の既存在来植物材料種においてもアオキと同じような状態にあるものが少なくないと考えられ、また最近では在来種の積極的な利用が増える傾向にある。本研究の結果は、今後新たに植栽機会の増える材料についてもその起源や植栽場所には十分注意を払う必要性を示している。