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一般講演 P3-182
宿主体内に共生する微生物は一般的に「宿主への感染→宿主体内での増殖→新しい宿主への感染→・・・」を繰り返すことで集団を成長させる。感染時に宿主体内に侵入する微生物の個体数(感染細菌数)は、個体群生態学的(宿主体内における微生物数動態への影響)、進化生態学的(宿主適応度への影響)に重要なパラメータであると思われるが、これまでの実証・理論研究はこれに注目していない。
マルカメムシ類と腸内共生細菌Ishikawaellaの間には互いに単独では生存できない絶対的共生関係が進化しており、共生細菌は垂直感染によって宿主のメス親から子へ伝わる。その垂直感染機構は、宿主のメス親が産んだ共生細菌を含むカプセルを子が経口摂取するという特徴的なものである。子によるカプセルの摂取は通常約60分間続き約107の共生細菌が感染するが、カプセルの摂取時間と感染細菌数には正の相関がある。すなわちこの共生系では、カプセルの摂取時間を実験的に短くすることによって宿主への感染細菌数を再現性よく減らすことが可能である。
本研究では、感染細菌数が宿主体内での細菌増殖と宿主適応度に与える影響を明らかにするために実験をおこない、以下の結果を得た。(1)カプセル摂取時間を2分(感染細菌数約104)に減らすと宿主体内で共生細菌がほとんど増殖しない場合がみられた。(2)カプセル摂取時間を5〜10分(感染細菌数105〜106)に減らすと共生細菌は増殖したが宿主の適応度成分(成長速度、羽化時体サイズ)は低下した。この結果は、宿主個体に感染する共生微生物の個体数が微生物の増殖と宿主の適応度に影響を与えることを示す初めての例である。また、(1)は共生細菌のAllee効果、(2)は宿主の適応度減少を介した共生細菌のAllee効果とみなすことができる。