| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨 |
一般講演 P3-183
共進化過程は種対種のレベルで固定されたものではなく、集団間レベルで異質なものである。ゆえに、生物種間の進化的相互作用は、集団レベルにおける過程を評価した上で始めて理解することができる。こうした背景から、共進化過程の「地理的モザイク」に関する研究が近年注目を集めている。共進化の地理モザイクを明らかにする上でまず重要なのは、共進化動態が同調する地理的スケールを解明することである。しかし、従来の研究では、集団間比較に用いる集団の選択が先見的に設定ており、共進化の「ホットスポット」と「コールドスポット」がどういった空間的スケールで地理的モザイクを構成するのか、十分に検討されてこなかった。そこで発表者は、空間統計学的な手法を応用して、共進化過程の地理的スケールを解明しようと試みた。対象とした種子食性昆虫のツバキシギゾウムシとその寄主植物であるヤブツバキで構成される共進化系については、すでに日本全国のスケールにおいて軍拡的共進化の進行レベルに変異がみられることがわかっている(Toju & Sota 2006)。この系において共進化過程の空間的スケールを明らかにするため、より小さな空間スケール(直径約30kmの屋久島内)に着目して、ゾウムシ−ツバキ軍拡競走の地理的変異を解析した。その結果、ゾウムシ口吻長とツバキ果皮厚のそれぞれはわずか数km離れただけの集団間で大きく異なっており、両形質のサイズは屋久島内の集団間においても明瞭な相関関係を示した。また、ツバキ果皮に働く自然選択の強さも同様の空間的スケールで変異しており、こういった数kmのスケールで軍拡競走の進行レベルにずれが生じ得ることが明らかになった。以上から、共進化形質に働く自然選択は非常に小さな空間的スケールで変異することがあり、各種の適応的分化に重要な影響を与えていることが示唆された。