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一般講演 P3-186

雑種性タンポポの生理生態的特性 〜発芽特性と生残率のクローン間比較〜

*保谷彰彦,芝池博幸,山本勝利(農環研)

日本産タンポポとセイヨウタンポポとの交雑で生じた雑種性タンポポが全国に分布している。このうち4倍体の雑種は特に個体数が多く、都市部を中心に広く分布している。このような雑種性タンポポの分布拡大様式を解明する上で、クローンごとの生活史特性を把握することは重要である。そこで、本研究では発芽及び実生期の生理生態的な特性に着目した解析を行った。

まずマイクロサテライトマーカーにより分類されたクローンから、その分布域を網羅する約30クローンを選抜した。実験用の種子を得るための親個体は、前年に採集した種子のうち同一頭花に由来する10〜20種子を発芽・育成させた同一のクローンと考えられるものである。それらの親個体から、2006年4月〜6月に種子を採集して、発芽実験と実生の生残実験などに用いた。

発芽実験は、5℃から35℃までの7段階の温度条件で行った。その結果、日本産タンポポでは高温での発芽抑制が確認されたのに対して、セイヨウタンポポでは発芽抑制が認められなかった。雑種性タンポポでは、日本産タンポポと同様の発芽抑制が認められた。種子の発芽抑制は、不適な温度条件下で発芽を回避するメカニズムとして機能することが示唆されていることから、今回示された雑種性タンポポの種子発芽抑制が高温条件下での発芽を避けるメカニズムとして機能している可能性が考えられる。

次に、発芽直後の実生を37℃の高温条件下で栽培して、その生残率を比較した。その結果、4倍体雑種の特定のクローンの生残率は、他の雑種性タンポポやセイヨウタンポポのクローンと比較して有意に高かった。

雑種性タンポポのいくつかのクローンでは、暑さを避ける発芽メカニズムや高温条件下で実生の生残率が高くなる生理生態的特性をもつことが示された。雑種性タンポポは、これらの特性を獲得したことにより、都市部の裸地などを中心として分布を拡大した可能性が示された。

日本生態学会