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一般講演 P3-187
イトヨGasterosteus aculeatusは、両側回遊性の小型魚類である。イトヨには、形態的および生態的に異なるいくつかの生活型(たとえば遡河回遊型、陸封型)が存在する。異なる生活型の間では、食性の違いや、摂餌行動に関わる形質(鰓耙数、鰓耙長など)に遺伝的な変異が見られる。したがって、イトヨにおける摂餌生態の生活型間での変異は、それぞれの生活型が異なる環境に適応した結果を反映していると考えられる。そこで、イトヨの摂餌に関わる形質を支配する遺伝子を調べることで、イトヨの環境適応の遺伝的機構について情報が得られる可能性がある。本研究では、イトヨの摂餌に関わる形質として「味覚」に着目した。味覚受容体T1Rは、甘味(糖)およびアミノ酸の認識に関わっている。そこで、イトヨの味覚系の適応進化を分子レベルで明らかにするため、T1R遺伝子の多様性および分子進化について調査した。まずイトヨのゲノム配列データを検索したところ、10種類のT1R遺伝子および2種類の偽遺伝子が見つかり、イトヨのT1R遺伝子は非常に多様化していた。特に、甘味の受容体候補であるT1R2をコードする遺伝子は8種類存在し、調べられている脊椎動物の中で最も多かった。遺伝子系統解析の結果、T1R2はイトヨの系統で特異的に、急速に多様化していることがわかった。また分子進化学的な解析から、イトヨT1R2は強い正の自然選択を受けていることが示唆された。個々のT1R遺伝子の発現をRT-PCRで調べたところ、遺伝子間で発現パターンが異なっており、遺伝子間の機能分化が起こっている可能性が考えられた。これらの結果は、イトヨT1R2(甘味受容体候補)の適応的な進化を示唆しており、T1R2はイトヨの摂餌生態の多様化に関わる有力な候補遺伝子であると推測される。