| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P3-192

異質倍数化によるニッチ拡大はあるか?

広瀬恭祐(神戸大・理・生物),清水健太郎(チューリヒ大・理),工藤洋(神戸大・理・生物)

倍数化・交雑を介した種形成は植物では一般的に見られる現象であり、このゲノム構成の変化がもたらす影響を明らかにすることは植物の進化を理解する上で重要である。特に異なる性質を持つ種間どうしの交配によって生じた雑種は、両親種の性質を受け継いでハビタットが拡大する可能性がある。アブラナ科タネツケバナ属(Cardamine)では異質倍数体が多く見られ、200種以上といわれる本属の多様性を生み出す一因であると考えられている。さらに本属では、二倍体種が乾燥地、もしくは湿地という異なる生育地に限られているのに対し、両者が交雑することによって生じた異質倍数体はより多様な環境に生育しており、異質倍数化と生育環境の拡大が関連している可能性がある。

本研究では、植物の生育環境の決定・拡大に重要な種子の乾燥・沈水耐性について、二倍体・異質四倍体間の比較を行い、異質倍数体の生育可能な環境の幅が拡大しているかを検討した。種子を沈水・乾燥条件下で期間を変えて保存し、生存率の比較を行なった。湿地性二倍体C.amaraでは種子が常に沈水するような環境に生育するので、種子の生存率が乾燥条件下で低く、沈水条件下では高いと予測した。また、乾燥地性二倍体C. hirsutaC. parvifloraでは種子が乾燥にさらされる環境に生育することから、種子の生存率が乾燥条件下で高く、沈水条件下で低くなると予測した。さらに、異質四倍体C. flexuosa (C. amara×C. hirsuta)、C. scutata (C. amara×C. parviflora)では両親種の性質を受け継ぐことにより、両方の条件下で生存率が高くなると予測した。本発表では、これらの予測を室内実験により検証した結果を報告する。

日本生態学会