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一般講演 P3-194

分子系統樹でたどるオトシブミ科の植物加工の進化

*小林知里,加藤真(京大・院・人環)

植食性昆虫の多くは、寄主植物をいかに利用するかという点で多様な進化を遂げてきた。寄主植物利用における植食性昆虫の進化についてのこれまでの研究は、植物の化学防衛に対する解毒システムの獲得や、物理防衛を克服する口器の発達といった生理的・形態的なものがほとんどであった。しかし、植物利用に関し行動的な多様化を遂げた一群として、甲虫目オトシブミ科がいる。オトシブミ科は生きた植物に産卵し、その際に植物に様々な「加工」を施すという特徴を持っている。加工は、産卵した茎を傷つけて萎れさせる/産卵した葉を切り落とすといった比較的単純なものから、切った葉を巻いて葉巻を作る/葉巻に菌を植えるといった複雑なものまで、多様である。こうした行動は、植物の化学防衛物質や天敵、乾燥などの様々な要因の影響を受けて進化してきたと考えられ、その進化過程は興味深い。

現在オトシブミ科は大きく「チョッキリ類」と「オトシブミ類」に分けられている。チョッキリ類は茎の傷つけ/葉の裁断のみの加工を行う種が多く、一部に簡単な葉巻を作る種が現れる。一方でオトシブミ類は全ての種が複雑な葉巻を作製する。これまでに、オトシブミ科の植物加工の進化は、形態による系統樹から議論されてきた。最も祖先的な行動としては、「茎に産卵してその下方を傷つけ萎れさせる」というものだと考えられているが、その後どのような道筋で多様な植物加工が進化したのかについては、未だ一般的な理解は得られていない。

今回は、オトシブミ科の系統樹を分子データから再構築し、それを基に多様な植物加工行動がどのような経路で進化してきたと考えられるかを報告する。特に、オトシブミ科における「葉巻」の起源に注目し、オトシブミ類の複雑な葉巻はチョッキリ類の簡単な葉巻から進化したものなのか、あるいはチョッキリ類の葉巻とオトシブミ類の葉巻は独立の起源なのかについて議論を行う。

日本生態学会