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一般講演 P3-198

コオロギのcalling songとcourtship songが交配前隔離に及ぼす影響

*角(本田)恵理(東大院・総合文化), 佐久間正幸, 福井昌夫(京大院・農), 長谷川寿一(東大院・総合文化)

コオロギの歌は種特異的であり、交配前隔離に重要な役割を果たすと考えられる。これまで、日本産エンマコオロギ属3種(エゾエンマコオロギ、エンマコオロギ、タイワンエンマコオロギ)においてcalling song(呼び鳴き)が交配前隔離として有効に機能することを報告してきた(Honda-Sumi 2005)。しかし、コオロギの歌はオスの発音状況によって異なり、複数のレパートリーがある。繁殖時の野外では、calling songだけではなくcourtship song(求愛鳴き)やaggressive song(闘争鳴き)もきこえてくる。

そこで、同所的に分布する2種(エゾエンマコオロギとエンマコオロギ)のメスを用いて音声プレイバック実験を行い、近縁他種のcourtship songに対する反応を調べた。その結果、エゾエンマのメスでは、自種のcalling songやcourtship songよりもエンマやタイワンエンマのcourtship songに強くひきつけられる個体の存在が示された。一方、エンマのメスは自種のcalling songおよびcourtship songに強くひきつけられ、他種のcourtship songにはひきつけられなかった。

これらの結果から、エンマのcourtship songが、エンマだけでなく同所的に分布するエゾエンマのメスをも強くひきつけることが明らかになった。calling songの研究からは安定した関係にあると考えられていた2種であるが、交配前隔離が不確実な状態が続いている可能性がある。本研究結果からは、エゾエンマ側が一方的に多大なコストを被ると考えられるため、エゾエンマ個体群で聴覚特性に急速な進化がもたらされることが予想される。

日本生態学会