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一般講演 P3-200

集団サイズと近親交配が近交弱勢に及ぼす影響−数理モデルによる世代変化の予測−

*石田清(森林総合研究所関西支所)

近交弱勢は、劣性有害遺伝子によって近親交配家系や小集団の適応度が低下するという現象であり、小集団の絶滅リスクや交配様式の進化の方向を決める重要な要因である。集団サイズ(遺伝的浮動)や近親交配、遺伝子流動などが遺伝的荷重(劣性有害遺伝子による生存率の低下)の程度に及ぼす影響は理論的に検討されてきたが、絶滅リスク評価に必要な短いタイムスケール(小集団となった後の数〜数十世代)でみたときに、これらの要因が小集団の遺伝的荷重にどのような影響を及ぼすかという問題はあまり検討されていない。そこで、各遺伝子型に作用する自然選択と突然変異を考慮した数理モデルを開発し、集団サイズ、近親交配(血縁個体間の交配)、遺伝子移入が小集団に現れる遺伝的荷重に及ぼす影響を調べた。

その結果、1)小集団化にともなって生じる遺伝的浮動が遺伝的荷重に及ぼす影響は弱有害遺伝子と致死遺伝子の場合で異なること(弱有害遺伝子による荷重が時間の経過とともに減速的に増加していく一方で、致死遺伝子による荷重は増加から減少に転じる)、2)近親交配は劣性有害遺伝子のパージの程度を高めるが、同時に遺伝的荷重の程度も高めること(致死遺伝子由来の荷重への影響は時期によって異なる)、3)大集団からの遺伝子移入が遺伝的荷重に及ぼす影響も弱有害遺伝子と致死遺伝子の場合で異なり、遺伝子移入が弱有害遺伝子由来の荷重を小さくする一方で、致死遺伝子由来の荷重への影響は時期によって異なることなどがわかった。

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