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一般講演 P3-217

生育環境が異なるスミレ属2種における系統地理

遠山弘法,矢原徹一

植物の地理的分布や集団間の形質の違いは、現在と過去、両方の生態的要因によって生じる。分子系統地理は、多くの植物種の集団分化の歴史を明らかにしてきた。しかし、これまでの系統地理研究は、集団分化のプロセスのみに焦点をあてており、形質進化のプロセスまで明らかにした研究はない。形質進化のプロセスを調べる事で、種分化や局所適応に関わる形質を明らかにする事ができる。本研究では、日本における林床性と草原性の種の分化の歴史、及び形質進化のプロセスを明らかにする為に、林床性のエイザンスミレと草原性のヒゴスミレの姉妹種を用いた。

それぞれの種は分布域全体をカバーするように11集団ずつサンプリングを行った。集団間の系統地理的な関係を推定する為に、5つのAFLPプライマーセットを用いた。全132個体、533AFLPバンドを用いた系統解析の結果、それぞれの種は主に2つのクレードに分かれた。次に、形質進化のプロセスを明らかにする為に、共通環境下で生育させた個体の13形質を測定し、どの形質が、種間、クレード間、集団間で異なるのかを階層分散分析で明らかにした。解析の結果、種間では春葉などに関わる4形質、クレード間では3形質、集団間では花への資源分配や送粉に関わる6形質が異なっていた。

これらの結果は、それぞれの種において少なくとも2つの隔離された系統が存在する事を示唆する。この事は、2つ以上のrefugiaの存在を示唆する。また、春葉形質は種間で異なっていた。この事は、草原と林床における春先の光環境の違いが種分化に寄与している事を示唆する。クレード間では3形質に分化が見られた。この事は、地理的な気候の違いや遺伝的浮動が寄与した事を示唆する。集団間では花への資源分配、送粉に関わる形質が異なっていた。この事は、それぞれの集団の送粉昆虫に対する局所適応の結果、生じた事を示唆する。

日本生態学会