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一般講演 P3-222
被子植物の70%以上はゲノム倍数化を過去に経験したと考えられる.倍数化が生物の多様化にとって重要かどうかについては,20世紀の中頃から論争が続いてきた.遺伝子重複によって片方のアリルが新しい機能を獲得し,新たな生育地へ進出する余地が生まれると肯定派のOhno Susumuは考えた.一方,否定派のLedyard Stebbinsは,たとえ片方のアリルが新たな機能を獲得できたしたとしても,もう片方が元の機能を維持するため,多様化は妨げられると考えた.本研究では,モデル生物シロイヌナズナに近縁のアブラナ科タネツケバナ属Cardamineの適応放散を解析することにより,倍数化と多様性の関係を考察する.
タネツケバナ属には200種以上が属し,乾燥地に生える種(C. hirsutaなど)から,流水中に生える種(C. amaraなど)まで, 多様な水分環境に適応している.CHS(chalcone synthase)などの遺伝子を用いて作製した分子系統樹の結果から,4倍体C. flexuosaは,乾燥地を好むC. hirsutaと流水中で生育するC. amaraを親株とした異質倍数体であることが示された.flexuosaは,乾燥も水没も繰り返す変動環境,つまり2つの親株の生育地の中間的な環境に生育する.この例は,異質倍数化が新環境への進出を促し,適応放散に貢献した好例といえる.また,同様の手法で,タネツケバナ属の適応放散には,少なくとも10回以上独立に起こった種間での異質倍数化が貢献したことが示された.
flexuosaが変動環境で生きられるようになったのは,2つの親株の遺伝子を使い分けているためと予測される.タネツケバナ属のゲノムはシロイヌナズナと高い相同性を示すため,マイクロアレイが利用できると期待される.この可能性についても検討し,遺伝子の発現パターンを比較する.