| 要旨トップ | ESJ54 一般講演一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


一般講演 P3-224

アブラムシによるアリへの化学擬態

*遠藤真太郎(信州大・理), 市野隆雄(信州大・理)

アブラムシとアリの関係は相利共生の例として有名である。アブラムシはアリに糖分に富んだ甘露を提供し、アリはその見返りにアブラムシを保護する。このような甘露授受を中心とした相利共生に関する研究は多い。しかし、アブラムシとアリの相互作用には、甘露だけでなく化学認識物質も重要な役割を果たしている可能性がある。アリとよく似た体表面炭化水素(CHC)を持つことでアリを欺く「化学擬態」はアリに対する多くの捕食者・寄生者で知られている(Akino and Yamaoka 1999, 2002)。今回、これらと同様に、相利共生者であるアブラムシからもアリとよく似た組成のCHCが検出されたので報告する。

本研究では、非常に緊密な相利共生関係にあるクサアリ亜属Dendrolasiusのアリ3種とクチナガオオアブラムシ属Stomaphisのアブラムシ2種を使用した。それらのCHC組成を比較した結果、アブラムシは随伴するアリとよく似たCHC組成を持っていることが明らかになった。さらに、アブラムシのCHCを構成する化学成分は、生得的な物質とアリ由来の物質の混合物であることがわかった。CHCの組成比を含めた多変量解析をした結果、S.yanonisでは随伴するアリの種やコロニーによって明確にCHCパターンが区別されたが、S.quercusでは明瞭には区別されなかった。

以上の結果をふまえて、これらアブラムシの持つ生得的・獲得的なCHC組成が、アリとの相互作用においてどのような働きを持っているかについて、アブラムシとアリの相互作用の強さと関連づけて考察する。

日本生態学会