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一般講演 P3-226
養魚併用水田における生物多様性維持機能を評価する目的で,放たれたフナ類が水田の生物群集に与える影響を調査した.4×9mの実験田4枚を直列に並べた流水池4面を用意し,各池にはフナ類添加・無添加田それぞれ2枚を無作為に配し,田植えから稲刈りまでの米栽培を実施した.無農薬条件のもと,施肥は推奨量の半分程度に控え,池全体を防鳥ネットで覆った(ただし,スズメの侵入を妨げることはできなかた).また,配合餌料等によるフナ類への給餌は行わなかった.
5月から10月に及んだイネの成育期間中,フナ類は繁殖を果たし,個体数の増加が認められたものの,成魚の斃死が相次ぎ,魚体総重量は実験開始当初に比して概ね半減した.坪刈り法による推定では,いずれの池においても,フナ類添加田は無添加田に比べると,米の収量において優る傾向を示した.7月,イネ葉上に集まる陸棲無脊椎動物の多様度指数について,水田間で有意差は検出されなかったが,アジアイトトンボに関しては,その出現個体数が,フナ類添加田で少なくなった.一方,水中の底棲無脊椎動物の多様度指数には,フナ類による摂餌の影響が反映された.
冠水期を通して,フナ類無添加田では水面全体に外来種イボウキクサを含むウキクサ類が繁茂したのに対して,フナ類添加田におけるウキクサ類の出現は限定的であり,とりわけ小型ウキクサ類の増殖は抑制された.安定同位体分析の結果,水田のフナ類が,食物としてウキクサ類に依存していた実態が明らかになった.米の増収に貢献した背景には,フナ類による排泄を介した硝酸塩の施肥効果が示唆された.水田に導入されたフナ類は,水田生物群集の構成要素として調和的に振舞い,なおかつ米の生産に資することが確認された.