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一般講演 P3-234
新たな生息場所への個体の移入のし易さ(個体の移入ポテンシャル)は、メタ個体群の存続性に重要な影響を与える。したがって、広域レベルで移入ポテンシャルの空間パターンを把握することができれば、メタ個体群の動態のモニタリングや生息場所の再生に伴う場所ごとの個体群再生ポテンシャルの予測に寄与するところが大きい。
本研究では、ため池など、伝統的な農業景観に特徴的な生息場所を代表する生物群であるトンボ類を対象に、異なる生息場所(樹林および水域)の空間配置と種の生態的特性(成虫期間の長さ)が、ランドスケープスケールレベルでのトンボ個体の移入ポテンシャルに及ぼす影響のシミュレーションモデルを用いた定量的把握を試みた。これらの要因を明示的に組み込んだ移動分散モデルにおける個体の移動分散に関するパラメーターは、22の池(2000〜2001年の冬に新たに造成)において2005年までに観測したトンボの移入量のパターンとシミュレーション結果との整合性を系統的に照合することによって妥当な値の範囲を特定した。
シミュレーションの結果、移入ポテンシャルの予測値は、樹林および水域生息場所の空間配置に強く影響をうけることが示された。また、成虫期間が長い種の移入ポテンシャルは短い種に比べ、より敏感に水域および樹林の空間配置に反応することが示された。さらに、両者の間では、同じランドスケープ上であっても、水域生息場所間の分散成功率が大きく異なることが示された。
これらのシミュレーション結果は、既往研究における観察結果と矛盾せず、モデルによる予測の妥当性が示唆された。さらに、パラメーターを推定する際に実測パターンとの検証を繰り返し行うことで、対象としたランドスケープにおけるトンボ個体の移入ポテンシャルの定量的な予測がある程度まで可能なことが示唆された。