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一般講演 P3-241

シカ採食が植物の受粉、寄生に与える相乗的間接効果

○寺田佐恵子(東大・院・生物多様性),国武陽子(国環研),高田まゆら,宮下直(東大・生物多様性)

大型草食動物の過度の採食は、生息地分断化と同様に、植物の密度低下や孤立化によって植物―昆虫間の生物間相互作用に影響を与えている可能性がある。本研究では、シカの採食によるアオキの個体密度低下と孤立化がアオキの受粉、果実寄生の2つの生物間相互作用に与える影響を調べた。アオキは雌雄異株で雌雄間の花粉媒介が不可欠であり、また果実にはスペシャリスト寄生者のアオキミタマバエが存在する。千葉県房総半島のシカ生息地と非生息地でアオキ雌個体をマークし、個体サイズ、生育環境、個体分布状態、個体あたりの受粉率と寄生率を2年間調査した。シカ生息地では、アオキの個体密度が低下し個体間距離が拡大し、寄生率が著しく低下していたが、受粉率には有意差はなかった。受粉率と寄生率を目的変数、上記調査項目と年を説明変数とし、AICを用いた重回帰モデルの選択を行った結果、受粉には年、開空度、雄個体との距離が、寄生には雌個体密度、個体サイズが効いていた。また、植栽距離を変えた野外実験でも、雌雄個体間の距離拡大に伴い受粉率は低下した。さらに、網掛け授粉実験から虫媒依存であること、訪花昆虫観察から送粉者は複数のジェネラリスト昆虫種であること、また捕獲調査からこれら送粉昆虫の個体数はシカ生息地と非生息地で差がないことがわかった。以上の結果より、1)相互作用のプロセスが蓄積されるほど各プロセスに対する分断化の影響は強まること、2)特殊化の度合いの高い系では上位の栄養段階のものほど減少効果を強く受けること、3)特殊化度が低い場合は個体数の変化ではなく相互作用強度のみが変化することで影響が強まること、が示唆された。草食動物の採食の影響の評価には、このような様々な非線形反応が生じるメカニズムを考慮することが必要である。

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