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公募シンポジウム講演 S01-3
地球上に最初の生命が誕生した時から、生命活動は常に有害重金属にさらされてきました。水銀は生物に対して高い毒性を示す有害重金属ですが、細菌の中には水銀に対して耐性能を獲得した菌が存在し、遺伝子・タンパク質レベルでの水銀耐性機構が明らかにされつつあります。また全球規模での水銀の循環にも微生物が大きく関与している事が知られています。
アメリカ・ボストン港の底泥より分離されたバチラス属細菌 (土壌細菌の一種) は、有機水銀耐性に関わる遺伝子群を持っていることが1989年に報告されました。その後我々の研究により、世界各地の土壌サンプルから同様の有機水銀耐性遺伝子群を持つ細菌が見つかってきました。このような細菌は、水俣湾底泥のように水銀に汚染された場所だけでなく、水銀汚染されていない海水浴場のような場所でも見つけることができました。一連の研究を通じて、全く同一の遺伝子群が世界各地に存在することが明らかになってきたのです。
以上の発見は (1)アメリカ・ボストン港で見つかった細菌と全く同一の細菌が世界中に分散している(細菌の分散) (2)異なる細菌間で同一の遺伝子が共有されている(遺伝子の分散)のいずれかが成り立っている事を提示しています。そこで我々は、細菌の種同定に一般的に用いられる16S r-DNA解析だけでなく、有機水銀耐性遺伝子群およびその周辺のDNAについても合わせて解析を行いました。その結果 (1)細菌の分散 と (2)遺伝子の分散 の両方が起こっていることを確認する事が出来ました。
本シンポジウムでは、上記の有機水銀耐性遺伝子群に着目した結果を基に、(1)細菌の分散 および (2)遺伝子の分散 に関わる環境要因や現状の問題点についても言及してみたいと思います。