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公募シンポジウム講演 S01-4
細菌群集は、あらゆる生態系において物質循環と深くかかわっています。最新の分析により細菌群集では、(1)群集内で共存する系統群数が非常に大きく、(2)その系統群ごとに生理・生態的特性が異なり、(3)環境の時空間変動に応じて細菌群集の組成も変動を示し、(4)個体の移動分散が種の分布を制限する要因になる、ということが明らかになりつつあります。しかし、このような細菌群集の特徴が、物質循環にどのような影響を与えるのかについては、いまだに仮説すらありません。そこで、系統群の多様性と群集組成の空間的不均一性を共に組み込んだメタ群集理論モデルを用いて、「群集構造の空間的不均一性と細菌の移動分散が、局所的な環境変動に対する群集構造の時間的変化(=群集レベルの適応的応答)の原動力となり、炭素循環に大きな影響を与える」という仮説を検討しました。具体的には、性質の相異なる2種類の有機物の供給量が、植物プランクトンの大増殖に伴って変化するという環境変化に注目し、この変化に対して細菌群集は以下のような応答を示すと予測されました。(1)細菌群集間の移動分散が中程度の時に、群集組成の変化の程度が最大となる。(2)群集組成の変化に伴って、群集レベルでみたときに、2種類の有機物の利用比率が変化する。(3)その結果、植物プランクトンの大増殖後は、より多くの割合の有機物が細菌によって消費され、海洋の深層に鉛直輸送される有機物の割合が減少する。このような炭素循環パターンの変化は、細菌群集の多様性が低い場合と移動分散速度が小さい場合には生じないことも分かりました。この結果をもとに、「グローバルな移動分散や群集構造の空間的不均一性が、物質循環の維持に貢献している」という仮説の妥当性を議論したいと思います。