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公募シンポジウム講演 S01-6

共生による物質の供給は役に立つのか?:菌根菌との共生がもたらす植物の迅速な食害応答

*西田貴明, 大串隆之(京大生態研セ)

植物は食害を受けると、様々な誘導防衛反応を行います。この誘導防衛を含めた植物の対植食者防衛機構は、植物と昆虫の多様化をもたらした共進化の基盤と考えられています。植物の被食防衛が植物と植食性昆虫の相互作用に果たす役割について理解が進んできた一方で、防衛化学物質などの様々な防衛形質を支える物質供給システムに関してはほとんどわかっていません。しかし、植物と植食性昆虫の多様性の維持機構について生態系、群集レベルで理解するためには、物質供給システムに関与する生物間相互作用に注目する必要があります。植物の土壌からの栄養塩吸収は、菌根菌との共生関係に依存していることが知られています。この菌根菌による栄養塩類の供給は植物根と比べ供給能力がきわめて高く、菌根菌の関与が誘導防衛反応を促進すると考えられます。

そこで、菌根接種がミヤコグサ属植物の生長量を増加させる土壌条件と成長量に影響を与えない土壌条件で育成し、これらの株を摂食したハダニの産卵数から、菌根共生が植物の未加害および加害後の植物の植食者抵抗性に及ぼす影響を評価しました。その結果、未加害の植物では、菌根共生は植食者抵抗性に影響を及ぼさず、むしろ植物の質を向上させることで、ハダニに対しプラスの影響を及ぼしていました。一方、加害植物において、菌根共生は誘導的な食害抵抗性を迅速に発現させることが示され、誘導抵抗性の発現に菌根共生という物質供給システムが重要であることが示唆されました。さらに、共生する菌根菌の種類の違いが植物の防衛反応にもたらす違い、食害が植物を介して菌根共生に及ぼす影響について明らかにし、世代時間の長い植物の可塑的な反応に菌根共生がもたらす影響について論じたいと思います。

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