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公募シンポジウム講演 S02-3
送粉者によってもたらされる花粉粒の遺伝的な組成は、有性生殖を行う植物の繁殖成功や適応度に大きく影響する。虫媒植物の花にはしばしば複数種の昆虫が訪れるが、それらは種ごとに形態や訪花パターンが異なるため、植物の繁殖に異なる影響を与えると考えられる。訪花昆虫ごとの送粉特性を評価することは、植物と昆虫の共進化や植物個体群の維持機構の解明といった点から重要である。本研究では、花粉1粒からDNAを抽出し複数の遺伝子座を解析することで、訪花昆虫の送粉特性を運搬された花粉粒の遺伝的組成から評価した。
2005年に小川学術参考林(茨城県北茨城市)において、低密度に生育する落葉高木であるホオノキの樹冠に登って訪花昆虫を採集した。マルハナバチ類、ハナムグリ類、小型の甲虫類の体表から花粉粒を採取しDNAを抽出、9マイクロサテライト遺伝子座の遺伝子型を決定した。各訪花昆虫の付着花粉粒に占める自家花粉(昆虫が採集されたホオノキ個体由来の花粉)の割合、遺伝的多様性、付着花粉数、訪花頻度を送粉特性の指標とした。
マルハナバチ類や小型甲虫類に付着した花粉粒は自家花粉率が高く遺伝的多様性が低かった。またマルハナバチ類には多くの花粉粒が付着しており、多くの花を同時に開花させるホオノキ1個体から集中的に花粉収集を行っていたことが示唆される。花に自家花粉が多くもたらされることは、自殖種子の高い死亡率が確認されているホオノキにとっては好ましくない。一方、ハナムグリ類は自家花粉率が低く遺伝的多様性の高い花粉粒を多く付着させていた。甲虫類の中でもハナムグリ類は比較的敏捷に飛翔することが可能であり、ハナムグリ類はホオノキ個体間を頻繁に移動することでホオノキの他家受粉に貢献していることが示唆される。