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公募シンポジウム講演 S02-4

クリ花粉一粒ずつのマイクロサテライト分析による花粉流動解析

*長谷川陽一, 陶山佳久, 清和研二(東北大院・農)

自然条件下における送粉過程では、他殖性の植物の花の柱頭上にも自家花粉や近縁個体に由来する花粉が持ち込まれると考えられる。自家不和合性機構はこのような状況に対応し、自己とは異なるタイプの花粉が選び出されるよう機能していると考えられる。しかしこれまで、受粉段階における花粉組成と受粉後における花粉選択について、自然条件下での実態が量的に明らかにされることはなかった。そこで本研究では、天然林内に分布するクリ個体の雌花に付着した花粉一粒ずつを対象とし、それらからDNAを直接増幅して花粉親を特定し、受粉段階における花粉親組成を明らかにした。さらに、これを実際に種子生産に成功した花粉親組成と比較することで花粉選択の実態を明らかにした。

調査は宮城県栗原市の落葉広葉樹天然林内に設置した240m×250mの調査区で実施した。調査区内に分布するクリ成木281個体を花粉親候補とし、そのうち3個体から雌花70個と種子304個、雌花からは花粉1105個を採集して、マイクロサテライト11遺伝子座の分析に基づく花粉親特定を行った。

その結果、雌花上における他家花粉の比率は平均9.1%という低い値を示したが、結実段階の他殖率はほぼ100%であった。つまり、クリでは受粉段階での自家花粉率は極めて高いにもかかわらず、結実段階での自殖は自家不和合性機構によってほぼ完全に回避されていることがわかった。受粉段階と結実段階とで他家花粉の組成を比較してみると、花粉親と種子親間の近縁度・送粉距離はともに両段階間で有意な違いが認められなかった。つまり、他家花粉の中でより近縁な個体からの花粉が排除されているという証拠は認められなかった。

日本生態学会