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公募シンポジウム講演 S02-5

ハイマツ・キタゴヨウ交雑帯における交配パターン:花粉分散から種子形成まで

*綿野泰行, 朝川毅守(千葉大・理), 伊東めぐみ(千葉大院・自然科学), 陶山佳久(東北大院・農)

ハイマツPinus pumilaとキタゴヨウP.parviflora var. pentaphyllaの交雑帯においては、父性遺伝である葉緑体DNAがキタゴヨウからハイマツへ、一方、母性遺伝であるミトコンドリアDNAは逆の方向に遺伝子浸透を起こすことが知られている。この特異な浸透パターンは、両種の生殖的隔離機構と関係があると推測される。そこで本研究では、アポイ岳の交雑帯において、開花時期の相違および受粉から種子形成に至るステージでの隔離機構について解析した。同標高においては、ハイマツの開花時期はキタゴヨウより1-2週間先行する。しかしこの隔離は不十分であり、実質的には標高が異なれば開花期は重なる。実際に、ダーラム型花粉採集器により空気中の花粉を採取し、花粉1個からPCRして葉緑体DNAのタイピングをSSCP法で行った結果、調査範囲である二合目から七合目(約200-650m)の全ての地点で両タイプの花粉の混在する時期が存在した。次に、母樹とその種子の葉緑体および核遺伝子型の比較から、花粉選択の有無を調べた。母樹がハイマツとキタゴヨウの場合、種子の花粉親は、多くの場合母樹と同種であった。しかし母樹が雑種の場合、種子の花粉親は、ハイマツ、キタゴヨウ、雑種と様々であることが分かった。以上の結果から、ハイマツ・キタゴヨウ間では受粉‐種子段階で強い隔離が存在するが、雑種では選択性が失われている事が判明した。少数例ではあるが、8合目から9合目(約650-800m)においてハイマツ母樹×キタゴヨウ花粉の種子が存在したが、キタゴヨウ母樹の種子で、純粋なハイマツが父親の例はなかった。したがって、両種では花粉選択の強度に差があり、ハイマツが母樹となった交雑の方が起こりやすく、これが一方向性の遺伝子浸透の原因になっている可能性がある。

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