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公募シンポジウム講演 S02-6
東南アジアの低地フタバガキ林では、「一斉開花」と呼ばれる不定期の集団開花現象を通して種子生産が行われる。多様な種による同調的な開花は膨大な量の送粉者を必要とするが、非開花期における餌資源の欠乏は送粉者を減少させうるため、どのように送粉者不足を回避し、大量結実に至っているのかは熱帯林の大きな疑問の一つになっている。
そこで本研究では、マレーシア・パソ森林保護区において、フタバガキ科植物Shorea acuminataを対象に訪花昆虫の採集を行い、1)各昆虫種の訪花パターンの比較、および2)体表付着花粉の遺伝解析による送粉貢献度の推定から、一斉開花時の急激な開花量の増加に対応した送粉システムの解明を試みた。
最も訪花頻度の高かったアザミウマ(>75%)とその捕食者であるカメムシ類(>10%)について体表付着花粉を採集し、マイクロサテライト遺伝子座10座について解析を行なった結果、1)アザミウマの送粉の多くは自家受粉に限定されるものの、2)アザミウマの捕食者であるカメムシが他家受粉に貢献していることが明らかとなった。また訪花パターンや種子・実生の遺伝解析の結果から、3)一斉開花時の花資源の増加に伴うアザミウマの増殖が分散能力の高いカメムシを誘引することや、4)高い訪花頻度によってアザミウマが生産する大量の種子が、カメムシが媒介した他家受粉に由来する少量の種子の捕食率を下げる効果を持つことなどが示唆され、高い繁殖能力で急激な開花に対応できるアザミウマを中心とした食物網が一斉開花による熱帯林の更新を担っていることが推察された。