| 要旨トップ | ESJ54 シンポ等一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


公募シンポジウム講演 S02-7

花粉一粒によるハプロタイプ解析と進化ゲノム学への展望

清水健太郎(チューリヒ大・理), 池田啓(チューリヒ大・理, 京都大院・人間環境)

生態・進化現象の分子レベルでの研究のために、核遺伝子配列情報の重要性が近年高まっている。これまでよく用いられてきたアロザイム、母系遺伝のミトコンドリア・葉緑体配列などと比べて、核遺伝子配列から得られる情報量は比較にならないほど多い。とくに、2つの対立遺伝子を分けて、片方ずつの配列(ハプロタイプ)を得ることにより、自然選択の検出、祖先の推定、また進化・生態現象を担う遺伝子の単離(連鎖不平衡解析)などが大きく促進される。

しかしながら、自殖種シロイヌナズナなど実験系統の得やすいモデル生物を除くと、核遺伝子のハプロタイプ決定は容易でない。クローニングには労力とコストがかかる上に、実験過程の人工的組換えでハプロタイプが高頻度で失われてしまう。そのため、これまではハプロタイプを直接決定せず、多量の配列から誤差を伴って推定することが多かった。また、ヒトのゲノム学では、労力はかかるものの、精子タイピングによるハプロタイプ決定法が開発されてきた。精子は減数分裂によって半数体になった細胞であり、1つだけの対立遺伝子を解析できるからである。

我々は、野生植物のハプロタイプを決定する手法として、半数体である花粉の一粒解析を活用することを考えた。材料として、シロイヌナズナ属Arabidopsisを用いている。ミヤマハタザオA. kamchaticaは、2つの他殖性の親種に由来する異質倍数体である。核遺伝子による解析を行った結果、日本の中央高地の集団は他集団と異なる倍数化の起源を持つこと、そしてそのハプロタイプは、現在の日本の親種には見られないことが示唆された。このことは、この倍数体集団が、氷期間氷期サイクルの中で、日本の中央高地をレフュジアとして生き残ったことを示唆する。講演では、ハプロタイプを用いた進化生態ゲノム学の展望について述べたい。

日本生態学会