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公募シンポジウム講演 S03-3

モンゴルの人と生態系の100年史

*藤田昇(京大生態研)・石井励一郎(地球フロンティア)

モンゴルでは遊牧が1000年以上の長期にわたり主たる産業として持続してきた。しかし近年、家畜の急増・集中化による遊牧草原生態系の崩壊や、国際機関からの遊牧は遅れているという批判により遊牧は危機を迎えている。本講演では、特に大きな社会構造変化があったモンゴル100年史を振り返り、その間の人間社会の変化がモンゴルの生態系ネットワークに与えてきた影響を考察し、そこから遊牧・草原生態系の再生の道筋を探りたい。

20世紀以降のモンゴルの政治体制は、1)自治による立憲君主国時代、2)ソビエト革命後1924年建国以降の社会主義時代、3)20世紀末のソ連の崩壊による民主化後、の3つの時代に区分される。経済的には、自給自足・物々交換、社会主義的管理経済、民営化・自由主義市場経済に対応し、土地制度は2002年に居住地と農地が私有化された。一次産業は、上記の3つの時代で大きく変化している。家畜数は社会主義初期の急増後一旦安定し、民主化後に再び急増し始めた。農地は社会主義後期、農業政策により連続的に急増したが、民主化後に耕作放棄のため放棄農地が急増した。この間、遊牧様式と遊牧民の分布も大きく変化した。遊牧の移動性が低下し、遊牧民が市場のあるウランバートル周辺と道路沿いに集中するようになり、また気候変動による乾燥化が進むと水が安定して流れる大河川沿いへの集中も見られるようになった。これらの場所でみられる被食耐性植物の優占による荒廃草原化は家畜のオーバーグレイジングによるものと推察される。草原に接した森林では家畜のグレイジングによる稚樹の更新阻害と人による伐採・盗伐が目立つ。

草原調査と刈り取り実験から遊牧草原生態系の崩壊の実態を紹介し、その要因となった社会的背景を考察することから、遊牧・草原生態系の相互作用系としての再生の道筋を検討したい。

日本生態学会