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公募シンポジウム講演 S03-4

経済学からみた人と環境の関わりの変化

諸富徹(京大経済)

本講演では、経済学の観点から、人間社会と環境の関わりをどうみることができるのか、そして環境や生態系の保全のためには、両者のあり方をどのように再構築していくべきかを明らかにしたい。

経済と環境・生態系の関係の捉え方には、経済学において大まかに2つの異なる考え方がある。まず、新古典派(実はマルクスの『資本論』も、似たような論理構成とみることができる)は、経済システムの内在的な力が、環境や生態系を破壊しながら経済システムを発展させる傾向があることを明らかにした。他方で、物質代謝論は、エントロピー論に基づいて人間と自然の相互作用を分析し、両者間の物質代謝という観点から環境・生態系の破壊を明らかにしようとした。前者が市場親和的な環境保全のあり方を提案するのに対し、後者は望ましい物質循環の姿に経済システムを従わせることを提唱する点で対照的である。

このような対立軸は、俗っぽく言えば、経済優先と環境優先という立場の違いを反映している。そしてこの対立軸は、いわゆる「持続可能な発展」概念にも鮮明に現れる。つまり、前者が人工資本と自然資本の代替性を無限に認めるのに対し、後者は基本的にその代替性を認めない。もっとも現代では、環境なくして経済は成立しえず、他方で何らかの形での環境の経済的利用も不可避である。したがって我々の課題は、「経済か環境か」の選択ではなく、相反する両者の間のどこに最適解を見出すかにある。

本講演では「持続可能な発展」概念を、「自然資本の賦存量が、臨界資本量を下回らないという制約条件下で、福祉水準を世代間で少なくとも一定に保つこと」と捉えなおし、環境や生態系を保全していくためには、それらと経済との関係をどのように再構築すべきかを論じ、さらに、環境保全に向けてネットワーク、信頼、互恵性に基づく「社会関係資本」を活用していくことの重要性を強調したい。

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