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公募シンポジウム講演 S03-5

生態系ネットワークから環境問題を考える−理論的アプローチ

*中丸麻由子(東工大・社理工)・近藤倫生(龍谷大理工)

里山のような人間の社会経済活動と生態系が共存してきた系でも、近年急激な社会経済活動によってその共存関係が崩壊してきている。最近の研究トピックとして、社会経済活動による土地利用や環境中への化学物質の放出によって生じる生態系崩壊や、乱獲による生物資源枯渇がある。本プロジェクトでは「ネットワーク」に着目した生態系崩壊や環境問題を考えていく。

ネットワークと言っても、生態系では例えば食物網、種内の社会ネットワーク、人間社会内にも様々な社会・経済ネットワークが存在する。このプロジェクトでは人間社会・経済活動と生物資源利用のネットワークの変化に伴う生態系崩壊への影響を検討していく。本プロジェクトの予備研究によって、サラワクやモンゴルでは、(1)ネットワーク構造の急激な変化(2)地元住民によるサブエコシステム利用の歴史的なリンクの弱体化と生態系の崩壊(3)企業の生物資源利用によるリンクの強化(4)企業と地元住民のリンクはほぼ独立、という共通点が明らかになっている。

理論班では、数理モデルやコンピュータシミュレーションを用いて、サラワクやモンゴルという特定地域の歴史的資料を基に、従来の安定な人間社会経済ー生態系ネットワーク構造がなぜ安定であったのか検討する。そして、現在のネットワーク構造がなぜ生態系崩壊を招いているのか突き止める。最近研究の盛んな複雑系ネットワーク理論研究も参考にして、生態系崩壊を食い止めるためにどのリンクを張ったり、切断すればよいのかという現実的な政策提言をしていくことを念頭に置いて研究を進めていく予定である。現実的な政策提言のためには、グローバル化している経済活動(物流)の影響や、地域ごとの文化や社会規範、人間の心理特性を加味していく必要があり、数理・シミュレーションモデルにどのように組み込んでいくのかも考えていきたい。

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