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公募シンポジウム講演 S04-5

里山林の生態学調査と共有地入会権訴訟の行方

野間 直彦(滋賀県大・環境)・安渓 貴子(山大・非常勤)

上関原子力発電所建設予定地にある共有地の入会権をめぐって裁判が行われている。その争点に林の構造をどうとらえるかという問題が深く関わり、里山の生態学が司法の場で使われることになった。入会権には共有の性質を有する入会権と、地役の性質のみを有する入会権の2種類がある。一審(山口地裁岩国支部)では原告住民の地役入会権が認められ、事実上工事ができない結果が示された。控訴審(広島高裁)では、過去に薪をとるための伐採があったかどうかが争われた。伐採されたことがない林であれば入会利用の事実がないことになるので、被告中国電力側はそのような主張を行った。私たちが2か所の共有地内の林を調査したところ、幹の直径が細く、落葉樹が多く、根元から萌芽した複数の幹を持つ木が多く、いずれもかなり若い林と考えられた。生長錐による年輪解析の結果からも、各々40-50年前と30-40年前までは伐採されていたと考えられた。空中写真の解析結果もこれに近い。共有地の林は薪の利用を中心に伐採され、その後成長したものと考えられる。それに対し被告側からは、江崎次夫愛媛大学教授により「伐採と原告が主張するものは、台風や大雨、枯れたアカマツの倒壊、林地の表層崩壊の影響であり、人為は全く働いていない」という反論がなされた。それに対し私たちは、江崎氏の意見書は植生遷移の研究や地域住民の知恵の体系を無視し科学的根拠が乏しいことを丁寧に論証した。その結果、2005年10月広島高裁は、共有地の林は薪をとるために継続的に伐採・利用されてきた林であるという主張を完璧に認めた。しかし、共有入会権が地役入会権に変化した、共有地が伐採されなくなり30年近くたつことから時効により入会権が消滅したとみなされる、等とし、原告敗訴の判決を出した。本件は現在、最高裁に上告中で、その判断が注目される。

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