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公募シンポジウム講演 S05-3
997年から1998年にかけて起こった20世紀最大のエルニーニョに伴って、非常に強い乾燥が東南アジア地域の各地で見られた。この強い乾燥が熱帯林の動態に与える影響を調べるため、マレーシア・サラワク州にあるランビルヒルズ国立公園の毎木調査データ(胸高直径10cm以上の樹木を対象、1.38 haプロット)の解析を行った。毎木調査は1993年、1997年、2001年、2005年の計4回、4年間隔で実施した。
全体の年間死亡率を対数計算したところ、非乾燥時(1993-1997と2001-2005年)の0.89-1.09%に対し、乾燥を含む時(1997-2001年)は3.72% yr-1であり、乾燥時には非乾燥時の数倍も有意に高い死亡率をもっていた(Nakagawa et al. 2000)。分類群(11の科)ごとの年間死亡率では、いくつかの科で乾燥を経験したときの年間死亡率が有意に高くなっており、特に調査地域の優占種であるフタバガキ科の変化が大きいことが明らかになった。サイズ別(4段階)に死亡率を比較すると、どの大きさでも乾燥時の死亡率が有意に高くなっていた。また、非乾燥時の年間死亡率と乾燥時の年間死亡率の比に注目すると、大きい木でその比の値が高いことから、乾燥が原因で樹木が死亡する場合には、平常時に死亡するときよりサイズに依存しないことが示唆された。大きい樹木が死亡すればギャップが形成され、林床の光環境が変化することで低木の成長速度が変化するだろう。実際に、乾燥時における小径木(DBHが10-15cm)の平均相対成長速度が、非乾燥時より有意に高くなっていた。大気中の二酸化炭素濃度の上昇に伴い、エルニーニョ現象も強くなると予想されているが、今回のような乾燥が頻繁に起こるようになれば、森林のサイズや樹種構成に大きな影響を及ぼす可能性がある。