| 要旨トップ | ESJ54 シンポ等一覧 | 日本生態学会全国大会 ESJ54 講演要旨


公募シンポジウム講演 S05-6

乾燥と樹木のフェノロジー(開花,展葉)

市栄智明  (高知大学)

気候に明瞭な季節性がないと言われる東南アジアの熱帯雨林だが、実は不定期であるが多くの樹木が参加する同調した展葉や開花現象が見られる。特に、その同調した開花・結実現象は「一斉開花」と呼ばれ、東南アジアの熱帯雨林に特有な現象として知られている。一斉開花が起こると、この地域の優占種であるフタバガキ科を始め様々な樹種が次々と同調して開花・結実するが、それ以外の年にはほとんど花や実は見られない。

マレーシア・ランビル国立公園の低地フタバガキ林で、樹木の展葉や開花のフェノロジーと気象因子との関係を調べた。その結果、同調した展葉や開花現象の直前には、多くの場合短期間の極端な乾燥が入っていることがわかった。乾燥状態が2週間程度続く場合にはその後に同調した展葉が、1ヶ月程度続く場合には一斉開花が起こっていた(Ichie et al. 2004, Sakai et al. 2006)。しかし、非常に強い乾燥が見られた年でさえ、全ての樹種・個体が展葉や開花に参加するわけではなく、繁殖可能なサイズに達していても展葉や開花しない個体も多かった。フタバガキ科の巨大高木Dryobalanops aromatica 30個体(胸高直径30cm以上)について、一斉開花への参加の有無と樹体内貯蔵養分濃度の動態を調べた。その結果、一斉開花に参加した個体は、開花直前のリンなどの栄養塩の濃度が、開花に参加しなかった個体よりも有意に高かった。また、一斉開花年の結実量と樹体内リン濃度の減少量との間には、有意な正の相関関係が見られた。そのため、展葉や開花に必要な貯蔵養分が樹体内に十分に蓄積できていない状態では、たとえ展葉や開花の誘導因子と考えられる極端な乾燥が入っても、個体レベルではそのイベントに参加できない可能性が示唆された。熱帯林の乾燥化は、将来的に熱帯樹木の展葉や開花システムの崩壊を招く可能性もある。

日本生態学会