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公募シンポジウム講演 S06-1

希少樹種の保全研究プロジェクトの成果からみた現状と課題

金指あや子(森林総研)

固有の森林生態系を構成する希少樹種を保全することは,生物多様性の保全上重要な意義がある。希少樹種はもともと限られた地域にのみ分布しているものが多いが,これらの中には近年の人間活動によって生息域の分断・孤立化を余儀なくされ,極端な小集団化が進んでいるものが少なくない。このような地域集団では、直接的な自生地の破壊による消失の他,小集団化・分断化による近交度の増加や,周辺環境の改変による更新サイトの環境変化のために引き起こされる更新不良などによって絶滅危惧状態が深刻化している事例が多く認められる。健全な次世代を確保するためには,次世代の遺伝的多様性を維持する林分配置の検討や、更新サイトの創出・復元のための技術開発を行なう必要がある。特に希少樹種が生育する森林において,生育環境の変化に伴って光環境が悪化している周辺林分の伐開や地表面の刈り払いなどによる更新サイトの創出や復元などの保全管理技術の実証試験が必要であるとされている。しかし、有効な保全管理指針の作成は決して容易ではない。特に、寿命が長く個体サイズが大きいなどの樹木の特性は、保全研究の対象にするには不利であることが多く、個体群動態パラメーターを得るにも繁殖特性調査を行うにも多くの困難が伴う。さらに、保全の実践においては、旧来の林業,緑化技術の応用が可能な部分が多く,増殖,植栽,移植といった馴染み深い手法が取り入れられやすいが、一方で、安易な野生個体群の人工林化につながる危険性もある。また、土地の所有権問題や管理主体など、さまざまな社会的な問題を考慮しなければならない場面も多い。このような希少樹種の現状について、これまでの希少樹種保全研究の成果をもとに概観し、保全のための今後の課題について検討する。

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